老老介護6割の時代になって 「家族信託」という新しい「隠居」①
1 老々介護6割の時代になって
https://www.asahi.com/articles/ASN7L3V1QN7KUTFL00N.html
厚労省が17日に発表した2019年の国民生活基礎調査では、介護する側とされる側がともに高齢化する「老老介護」が広がり、家族間で介護する世帯の6割に迫っていることが示された。
こんなセンセーショナルな報道がされました。
介護されている方の全員が認知症というわけではありませんが、かなりの割合で認知症になっていると推定されます。
普段、親元から離れていて気がついたら親が認知症になっていたなんてことは、外来をやっているとよく見ます。
そういったときは、「次回の外来のときは必ず息子さんといっしょにきてください」としつこいくらいにいうときもあります。(それでも来ない人がいるので困ってしまいますが・・・)
認知症といっても様々な病型(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症 ect)があるのですが、どんなタイプの認知症でもある程度進むとお金の管理ができなくなります。
そうでなくても病気になり、(脳卒中でも感染症でもどんな病気でもいいのですが)本人と意思疎通ができなくなってしまうと慌ててしまうと思います。
そうなる前に備えておきましょうというのが、今回紹介するこの本です。
楽天Kobo電子書籍ストア: 認知症の親の介護に困らない「家族信託」の本(大和出版) - 資産凍結、その前にしておくべきお金の対策 - 杉谷範子 - 4430000009244
2 銀行口座は(無情にも)凍結されます
病気になり本人が意思表示できなくなれば、銀行口座は凍結されます。
本書からの引用
たとえば、B子さん(四五歳)の母親のケースがそうでした。
夜中に脳卒中で倒れて救急搬送され、一命はとりとめたものの、意識は戻りません。入院や治療にまとまったお金がかかりそうなので、B子さんは母親の通帳と印鑑を持って銀行に駆け込みました。
ところが、窓口で100万円を引き出そうとしたところ、行員が、「こちらの通帳のご名義のご本人様ですか?」と聞きます。
「いえ、これは母の通帳です」
「それでは、ご本人様にいらしていただきたいのですが」
「母はにゅういんしているので、私が変わりに来たんです」
「お電話で、お母様のご意思を確認することは?」
「まだ意識がないので話ができるような状態ではないんです」
ここまで説明すれば行員も納得して、預金を引き出してくれるだろうとB子さんは思いました。でも、行員の言葉は思ってもみないものでした。
「では、このお通帳の口座はお母様がお元気になられるまでロックさせていただきます」
本人の意思確認ができないので、銀行としては当然そう対応せざるを得ないです。
認知症などで判断能力を失えば、たとえ家族であっても勝手に動かすことは許されません。
ちなみに突然発症の脳梗塞で発症早期の場合は、塞がった脳血管を再開通させることで
脳梗塞部位の機能回復が期待できるため血栓溶解術や血栓回収療術がおこなわれることがあります。
例えば経皮的脳血栓回収術の診療報酬は令和2年時点で33150点となります。
1点10円なので、これだけで331500円の医療費となります。
3割負担だった場合、この治療だけで10万円くらいの自己負担を要求されます。それ以外にも治療にかかる費用を考えれば数十万円の持ち出しが必要になると思われます。
ただし、こういった治療には当然副作用(出血合併症など)もありますし、再開通ができずに重い脳梗塞後遺症が残ってしまうこともあります。そうなればますます医療費は膨らんでいくことになります。
(むろん、高額療養費の払い戻しや医療保険などもあるため最終的な負担額は大きくないかもしれませんが、それでも当座の支払いのために大金を用意しないといけないでしょう)
3 「家族信託」という新しい「隠居」
親が認知症などで判断能力を失ったときに備えて「成人後見人」という制度があります。これは、本人にかわって判断をする「成人後見人」を立てることによって支援する制度です。
後見人がいれば、本人に意思確認ができなくても凍結された銀行口座を「解凍」したり、不動産の処分をしたりすることなどが可能になります。
親族が後見人になると、自分や自分の家族のために使うことは十分にあり得ます。
しかし、後見人はあくまで本人の財産を守ることが目的なので、法的にみれば使い込みになってしまいます。
このルールって実はとてもやっかいなんですよ
(以下 次回に続きます。)